昇進して、昨日まで一緒に愚痴を言っていた同僚が部下になった。仕事を頼むだけなのに言い方に迷う。注意したら「偉くなった途端に変わった」と思われそうで、つい自分が引き受けてしまう。
元同僚との関係では、仕事内容を知っているからこそ、役割が変わった説明を省いてしまいがちです。けれど、「今まで通りで」と言うだけでは、誰が判断し、何を相談すればよいかが分かりません。
親しさを急に捨てる必要はありません。仕事の依頼・判断・評価の基準を、相手にも周囲にも説明できる形にしましょう。この記事では、就任直後の面談、依頼、注意、評価の場面で使える伝え方を紹介します。
「これから変わること」を先に言葉にする
昇進によって変わるのは、人としての上下ではなく、組織から任された役割です。以前は同じ立場で提案していたことでも、これからはあなたが優先順位を決めたり、評価の説明をしたりする場面があります。
リーダー育成機関のCCLも、元同僚との関係が変わることを受け止め、期待を明確にし、特定の人をえこひいきせず公平に接することを、新任管理職への助言に挙げています。出典:CCL「How To Be a Leader That Everyone Admires at Work」
ただし、公平に接することは、全員に同じ件数の仕事を渡すことではありません。担当する役割、経験、現在の負荷に応じて配分し、その理由を説明できるようにすることです。元同僚だから頼みやすい、という理由だけで負荷を集中させないようにします。
チーム全体には、自分が決める範囲、メンバーに任せる範囲、相談してほしい条件を共有します。個別の面談では、その人との仕事の進め方を確かめます。特に親しい人だけ先に重要情報を知っている状態は、できるだけ作らないようにしましょう。
最初の面談は、協力を求めながら判断の責任も伝える
「管理職になったのでよろしく」だけでは、相手も何を話せばよいか迷います。今の仕事で大切にしたい点を聞き、今後の依頼や判断の進め方をすり合わせる機会にします。
以下の会話は、伝え方を考えるための架空の例です。相手が実際に同じ反応をするという意味ではありません。
上司:「これから、チームの優先順位と担当の調整を私が担います。今まで一緒に仕事をしてきた経験は大切にしたいです。そのうえで、担当や期限を変えるときは、理由も説明します」
元同僚:「急に細かく管理されると、やりにくいかも」
上司:「やり方まで毎回変えてもらいたいわけではありません。任せる範囲と、途中で相談してほしい条件を決めたいです。今、どこまで自分で判断できると仕事が進めやすいですか」
相手の要望を聞いても、すべて約束する必要はありません。自分に決められない待遇や人員の話なら、「その場では約束できない。上司に確認し、いつまでに返す」と区切ります。
また、元同僚が昇進を望んでいた場合でも、こちらから「悔しいと思うけど」と気持ちを決めつけない方がよいでしょう。今後担当したい仕事や、役割変更で困ることを聞きます。感情について本人が話したときは受け止めつつ、人事判断の裏話で埋め合わせないようにします。
一回の面談で関係を完成させようとせず、その後も仕事の進めにくさを確認します。継続して話す場の作り方は、1on1ミーティングの目的と進め方にまとめています。
仕事の依頼は「分かってくれるはず」を外す
以前から一緒に働いている相手には、背景を省いて「例の件、お願い」と頼みがちです。しかし、同僚同士の相談と上司からの依頼では、相手が感じる断りにくさも違います。
依頼する理由、完成条件、期限、既存業務との優先順位を伝え、難しい場合は何を調整するか話します。
上司:「来週の提案資料の比較表をお願いしたいです。顧客の要件を把握しているので、比較項目の判断を任せたいと思っています。水曜までに初稿、金曜に完成を想定しています」
元同僚:「今週は別の報告もあって厳しいです」
上司:「では、その報告の締切を動かせるか私が確認します。両方をそのままお願いする形にはせず、今日中に優先順位を返します」
親しさを理由に「君なら何とかしてくれる」と調整を省かないことが大切です。逆に、公平さを意識しすぎて、経験が適した元同僚に仕事を任せなくなる必要もありません。選んだ理由と負荷を確認できれば、説明の土台になります。
相手が以前のやり方を提案したら、役職で押し切る前に、目的や制約に照らして検討します。違う案を採る場合は、「今回は納期を優先するため、この方法にする」と判断した条件を伝えましょう。
注意は、関係の話より業務上の事実から伝える
元同僚への注意で避けたいのは、我慢していた不満を一度に出すことです。「前からそういうところがある」では、相手も何を直せばよいか分かりません。
例えば、共有期限を過ぎて資料が届いた場面なら、確認できた事実、仕事への影響、次回の行動を伝え、相手の事情も聞きます。
上司:「昨日の資料は、合意した15時を過ぎて届きました。そのため、確認担当が当日中に内容を見られませんでした。間に合わないと分かった時点で相談してほしいです。今回はどこで止まっていましたか」
元同僚:「別の依頼が割り込んで、どちらを先にするか迷っていました」
上司:「優先順位がぶつかったときは私に連絡してください。次回は、遅れそうな時点で状況を共有する形にしましょう」
注意した後で「友達だから分かって」と納得を求める必要はありません。業務上の約束として合意し、上司側の調整不足があれば直します。自分の依頼の仕方も振り返ると、相手だけに改善を求めずに済みます。
無視や遅延が続く場合も、最初から「自分が上司になったのが気に入らないのだ」と決めつけず、依頼が届いているか、期限と優先順位が共有されているかを確認します。解消しなければ、記録した事実をもとに自分の上司や人事へ相談します。
評価では、親しさも気まずさも採点の理由にしない
仲がよい相手に厳しい評価を伝えにくいときも、ひいきに見られたくなくて必要以上に厳しくしたくなるときも、会社の評価基準と期間中の事実へ戻ります。
| 迷いやすい場面 | 判断のよりどころ |
|---|---|
| 以前から頑張っている姿を知っている | 今回の評価期間と役割に対応する成果・行動を確認する |
| 意見を率直に言われ、指示に従わないと感じる | 異論を言うことと、合意した仕事を実行しないことを分ける |
| 親しい人だけ事情を詳しく知っている | 全員に実績や困難を説明する機会を設ける |
| 他の人からひいきに見られそう | 基準に沿った理由を記録し、必要なら上司と評価をすり合わせる |
評価コメントには「人柄がよい」「よく知っているので安心」より、どんな行動が仕事にどう役立ったかを書きます。事実・評価理由・期待で書く評価コメントの例を使うと、説明の不足を確かめられます。
面談で「前はそんなことを言わなかった」と言われたら、役割が変わったことに加えて、基準の共有が遅れていなかったかも確認します。新しい期待を後出しで過去の評価に持ち込まず、会社の制度に沿って扱いましょう。
距離の取り方より、約束を守るところから始める
呼び方や雑談をすべて変える必要はありません。ただし、評価や異動などの情報を私的な場で話す、特定の人だけに重要な相談をする、といった扱いは見直します。周囲が知らない場所で仕事上の決定が進む状態を避けましょう。
最初に整えたいのは、次の三つです。
- 依頼するとき、目的と優先順位を伝えているか
- 相手の負荷を確認し、必要な調整を自分が引き受けているか
- 評価や注意を、事実と事前に共有した基準で説明しているか
元同僚に認めてもらおうと急ぐより、こうした約束を一つずつ守る方が、相手も仕事の進め方を判断しやすくなります。
「任せ方を毎回迷う」「面談で本題を話せない」など、繰り返し困る場面が見えたら、学ぶテーマも一つに絞れます。管理職の悩み別に選ぶ本では、任せ方や1on1など、実務で変えたい場面から読む本を選べます。まずは次の依頼や面談を一つ、伝え方から見直してみてください。
