次のリーダーを育てたいと思い、優秀な部下に会議の進行を任せた。しかし、その後に何を任せ、どの状態になれば範囲を広げてよいのかが分からない。次期管理職の育成では、仕事を渡すだけでなく、判断の練習と振り返りを設計することが必要です。
90日間で目指すのは、管理職としての完成や昇進の確約ではありません。本人と上司が、次に任せられる役割と必要な支援を具体的に把握することです。ここでは、現場の管理職が候補者と合意し、小さなチーム運営を段階的に経験してもらう計画を紹介します。
候補者にする前に、本人の希望と会社の役割要件を確かめる
個人の成果が高い人でも、人をまとめる仕事を希望しているとは限りません。「優秀だから次は管理職」と決めず、どの仕事に関心があるか、どんな負担を心配しているかを聞きます。
声かけの例:今後、チームの進め方を決める役割にも関心はありますか。すぐに昇進を決める話ではなく、まず小さな範囲で経験してみて、合う点と難しい点を一緒に確認したいと考えています。
本人が迷っているなら、迷いの内容を確認し、試す範囲や期間を相談します。希望しない場合は、専門性を伸ばす道も含めて話し合い、意欲が低いと決めつけないでください。
会社側についても、次の役割に必要な判断、正式な権限、登用の手順を上司・人事と確認します。育成の担当者が、単独で昇進を約束してはいけません。リクルートマネジメントソリューションズの中堅・リーダー育成の案内でも、周囲と協働して成果を生む役割や、そのための育成を扱っています。以下の90日プランは同社の研修内容ではなく、現場で使うための当サイトの提案です。
練習するのは、作業の増量ではなくチームの判断
優秀な人へ難しい実務を集中させるだけでは、自分で処理する力ばかりが求められます。次の役割に近づくには、他の人が動けるように論点を整理し、配分や相談先を選ぶ経験も必要です。
| 練習する判断 | 小さく任せる仕事 | 上司が確認すること |
|---|---|---|
| 何を決めるか | 週次会議の論点整理と進行 | 報告だけで終わらず、決めること・担当・期限を残せたか |
| 誰に何を任せるか | 小規模案件の業務分担案づくり | 本人の得意不得意だけでなく、負荷と育成機会を見たか |
| 意見の違いをどう扱うか | 他部署と一つの納期・範囲を調整 | 相手の制約を聞き、選択肢と未決事項を示せたか |
| いつ助けを求めるか | 進捗とリスクの管理 | 問題を隠さず、決めた条件で相談したか |
人事評価、処遇、懲戒、重大な顧客対応などは、正式な権限と取り扱いルールを確認して管理職が担います。練習のために権限外の判断や不要な個人情報へのアクセスを与えることは避けます。
開始前に、本人の通常業務と上司の支援を調整する
育成課題を追加するなら、現在の仕事を何時間・どの範囲減らすかも合意します。本人だけでなく、代わりに仕事を受けるメンバーの負荷も確認してください。
本人の通常業務を減らす際は、業務分担の見直し方を使い、引き受けるメンバーの負荷も確認してください。
チームには「今回の案件では、この範囲の進行を担当してもらう。人員変更や最終判断は私が担う」と役割を説明します。候補者という理由だけで、同僚へ正式な権限以上の指示をさせないことが大切です。
- 担当する仕事と期間、成功したと言える状態。
- 本人が決められること、事前に相談すること。
- 減らす通常業務と、必要な資料・協力者。
- 上司との確認日と、緊急時の連絡方法。
- 途中で難度を下げる条件、いったん止める条件。
任せる前の合意を詳しく整理したい場合は、仕事を任せる合意シートを使えます。
90日プラン:会議の進行から、小さなチーム運営へ
下の表は一例です。経験や業務リスクに合わせて期間を延ばし、難度を調整してください。日数が過ぎたことだけを理由に次へ進めません。
| 期間 | 任せる課題 | 上司の支援 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| 1〜30日 | 一つの定例会議を準備・進行。決定事項と持ち帰る課題を整理 | 事前に論点を確認し、初回は同席。終了後に判断の理由を聞く | 議題、決めたこと、担当・期限、迷った場面 |
| 31〜60日 | 少人数の改善課題で、業務分担と進捗確認の案を作る | 担当者の負荷、権限、リスクを一緒に確認。再配分は正式な責任者が承認 | 分担案、メンバーの意見、変更理由、相談した条件 |
| 61〜90日 | 関連部署と範囲・期限を調整し、改善結果と次の案を報告 | 事前に合意可能な範囲を示す。部門間で決められない点は上司が引き取る | 比較した案、合意点・未決点、成果、次に必要な支援 |
たとえば会議を予定どおり終えても、発言しにくい人の論点を取りこぼしたなら、進行回数を増やす前に準備を見直します。逆に時間が延びても、重要なリスクを発見して適切に保留したなら、その判断は振り返る価値があります。
次の段階へ進めるかは、現在の課題を支援付きで再現できるか、本人に余力があるか、次の課題に必要な支援を用意できるかで決めます。
見極めは、性格ではなく観察した行動で行う
「リーダーらしい」「押しが弱い」といった印象だけでは、本人が改善できません。見た事実と、その仕事への影響を残します。結果には課題の難しさや上司の支援も影響するため、成功・失敗をそのまま本人の能力点に置き換えないでください。
| 観察する点 | 行動の記録例 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 論点整理 | 結論が出ない理由を「データ不足」と「優先順位の違い」に分けた | 事前準備でも、必要な情報を集められるか |
| 他者への働きかけ | 担当者の負荷を聞かずに期限を決め、後から調整が必要になった | 次回は分担案の前に、負荷と制約を確認できるか |
| 相談判断 | 納期への影響を把握した段階で、代案を添えて上司へ相談した | さらに早く気づくための確認点は何か |
| 学び直し | 前回の指摘を踏まえ、会議前に関係者の意見を集めた | 別の場面でも同じ考え方を使えるか |
上司だけが記録するのではなく、本人にも「何を見て、どの選択肢から決めたか」を説明してもらいます。見える結果が同じでも、判断の過程を聞けば、偶然うまくいったのか、再現できるのかを考えやすくなります。
振り返りでは、正解を教える前に判断の理由を聞く
短い振り返りでは、次の順序で対話します。
- 今回、何を決める必要があったか。
- どの情報を使い、どの選択肢を比較したか。
- 結果として何が起きたか。想定と違った点は何か。
- 上司の支援や権限が不足していた点はないか。
- 次回、一つ変えるなら何か。
上司が毎回すべてを修正すると、自分で考える余地がなくなります。ただし、顧客・安全・法令順守への重大な影響が見込まれる場合は、育成を優先して放置せず、上司が介入します。その後に、どの兆候で相談すべきだったかを振り返ります。
改善点の伝え方は、部下へのフィードバックの手順と例で確認できます。
90日後は、任せる範囲と支援を更新する
最後は合否を急がず、本人の意向と記録を見て、次の進め方を合意します。
- 範囲を広げる:現在の課題を再現できる。次の責任と支援者を具体的に決める。
- 同じ範囲で続ける:経験機会が足りない。何を何回試し、いつ振り返るかを決める。
- 範囲を狭める・一時停止する:負荷や役割が合わない。通常業務と支援体制を調整する。
- 別の成長方向を選ぶ:本人の希望も踏まえ、専門性やプロジェクトの役割を検討する。
昇進を判断する場合は、会社の正式な基準・手続きと、複数の業務で得た根拠を用います。この90日間の一課題だけで、将来の適性を決めつけないようにしてください。
まず本人と話し合うのは、「試したい役割」「最初に任せる一つの仕事」「そのために減らす仕事」です。育成機会を一人に集中させないための整理は部下育成の優先順位、役割の切り替えを考える読書には管理職の悩み別に選ぶ本も活用できます。
