部下へ一度説明したのに、同じ入力ミス、確認漏れ、連絡忘れが起きると、「前にも言った」「もっと注意してほしい」と感じることがあります。顧客や他部署へ影響が出ていれば、管理職として厳しく伝える必要がある場面もあります。
ただし、「次から気をつけます」と約束させるだけでは、再発を防げません。本人の知識や行動だけでなく、指示、手順、情報、業務量、確認方法、相談しやすさのどこでミスが起きたかを分ける必要があります。
この記事では、20年以上のマネジメント経験も踏まえ、部下が同じミスを繰り返すときに確認する7つの原因、本人への伝え方、再発防止策の決め方を解説します。
結論:注意する前に「どの工程で、なぜ防げなかったか」を確認する
同じミスが起きたときは、次の順番で対応します。
- 事実と影響を整理する
- 本人に作業の流れを説明してもらう
- 前回と同じ原因かを確認する
- 人、仕事、情報、環境、管理のどこに要因があるかを分ける
- 次回の作業で実行できる対策を決める
- ミスを早く発見できる確認方法を置く
- 実行後に対策の効果を見直す
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」は、ヒューマンエラーを原因ではなく結果として捉え、人を訓練するだけでなく、間違えにくい仕組み、早く発見できる仕組み、影響を小さくする仕組みを組み合わせる考え方を紹介しています。
一般のオフィス業務でも同じです。本人が注意することは必要ですが、注意力だけに依存する対策は忙しさや割り込みで崩れます。「本人が間違えない」だけでなく、「間違えても発見できる」「影響が広がる前に止められる」状態をつくります。
最初にミスと意図的なルール違反を分ける
同じ結果でも、意図しないミスと、ルールを理解した上で省略した行動では対応が異なります。
| 状況 | 例 | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| やり忘れ | 送信前の確認を忘れた | 確認のきっかけがあったか |
| やり間違い | 別の顧客データを入力した | 画面やファイルを識別できたか |
| 判断間違い | 問題ないと考えて承認した | 判断基準と必要情報があったか |
| 知識・経験不足 | 例外処理を知らなかった | 教育と参照資料が十分だったか |
| 意図的な省略 | 時間がないため確認を飛ばした | なぜルールを守れない状態だったか |
意図的な省略だからといって、本人の姿勢だけで終わらせないでください。手順が現実の業務量に合っていない、周囲も省略している、期限と品質の優先順位が曖昧など、管理側の問題が隠れている場合があります。
部下が同じミスを繰り返す7つの原因
期待する結果と完了基準が曖昧
上司は「確認してから送る」と伝えたつもりでも、何を確認し、どの状態なら完了かが共有されていないことがあります。
「数字を確認する」ではなく、元データとの一致、対象期間、単位、合計値、承認者など、確認項目を具体化します。本人と上司で完成状態の見本を見ると、言葉だけのずれを減らせます。
手順が複雑で、やり方が人によって違う
同じ仕事に複数の手順がある、例外が多い、古いマニュアルが残っている場合、本人が正しい方法を選べません。
作業手順を増やす前に、不要な工程を減らし、順番をそろえ、最新の正本を一つにします。手順書の更新日と管理者も決めてください。
必要な情報が不足している、または変更が伝わっていない
担当者、価格、期限、仕様などが変わっても、本人が古い情報で作業していることがあります。チャット、メール、会議資料へ情報が分散していると、経験者でも見落とします。
どの情報を正本とするか、変更時に誰がどこへ記録するか、作業前に何を確認するかを決めます。
割り込み、業務量、期限に無理がある
複数業務の同時進行、頻繁な割り込み、睡眠不足や疲労は、確認漏れを起こしやすくします。厚生労働省の医療安全事例でも、複雑な業務、作業中の割り込み、多重業務などがエラーを起こしやすい状況として挙げられています。
ミスが起きた時間帯、同時に抱えていた仕事、直前の割り込み、期限設定を確認します。重要作業を行う時間を確保し、通知を止める、受付担当を分ける、期限を調整するなど、環境を変えます。
知識や経験が足りず、例外を判断できない
通常の手順は理解していても、例外が起きると判断できない場合があります。本人へ「分からなければ聞いて」と伝えるだけでは、何が例外かを認識できません。
よくある例外、相談が必要な条件、判断に使う情報を事例で共有します。最初は作業前に本人の判断理由を確認し、経験が増えたら確認範囲を狭めます。
確認が本人の注意力だけに依存している
本人が作成し、同じ画面で続けて確認すると、思い込みに気づきにくくなります。
入力制限、必須項目、計算式、差分表示、チェックリスト、別の人による確認などを、リスクに応じて使います。すべてを二重確認にすると負担が増えるため、顧客・金銭・法令・個人情報など影響が大きい工程へ絞ります。
ミスや不明点を早く相談しにくい
部下が「怒られる」「能力がないと思われる」と感じると、問題が小さいうちに相談せず、自分で修正しようとして影響を広げることがあります。
ミスを見逃す必要はありません。事実と責任を確認しつつ、早期報告は評価する、相談時に最初から否定しない、緊急時の連絡先を決めることが大切です。部下が報告・相談してこないときの改善手順も参考にしてください。
再発防止につなげる7つの対応手順
事実と影響を整理する
本人と話す前に、日時、作業、期待した結果、実際の結果、発見した人、影響、暫定対応を整理します。
「また確認が甘かった」のような評価語ではなく、「顧客Aの見積書へ顧客Bの価格を入力し、送信前の承認で発見した」のように表します。
本人に作業の流れを説明してもらう
「なぜ間違えたのか」といきなり聞くと、本人は納得できる理由を作ろうとします。まず、作業開始から発見までに何を見て、どう判断し、何を行ったかを時系列で確認します。
この作業を始めてから送信するまで、見た情報と行った操作を順番に教えてください。
前回と同じ原因かを確認する
結果が同じでも原因は異なることがあります。前回は知識不足、今回は情報更新の漏れかもしれません。
前回の対策を本人が実行したか、実行できなかった理由は何か、対策を実行しても防げなかったのかを分けます。対策が機能しなかった場合は、同じ注意を繰り返さず設計を変えます。
原因を人・仕事・情報・環境・管理へ分ける
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 人 | 知識、経験、理解、体調 |
| 仕事 | 手順、複雑さ、例外、画面や帳票 |
| 情報 | 正本、更新、伝達、識別しやすさ |
| 環境 | 業務量、期限、割り込み、作業場所 |
| 管理 | 指示、教育、権限、確認、配置 |
一つのミスに複数の要因が関係することがあります。全部を一度に直すのではなく、再発への影響が大きく、次回までに変更できるものから着手します。
次回の作業で実行できる対策を決める
「意識する」「慎重に行う」ではなく、行動と仕組みで表します。
- 作業開始時に最新の顧客一覧を開く
- 送信前に宛名、金額、添付ファイルをチェックリストで確認する
- 例外条件に該当したら上司へ相談する
- 顧客名をファイル名と画面上部へ表示する
- 重要な金額は元データとの差分を自動表示する
本人が実行すること、上司が変更すること、他部署へ依頼することを分け、期限を決めます。
早く発見できる確認方法を置く
ミスをゼロにする対策だけでなく、発見を早める対策を置きます。
作業直後、提出前、顧客送信前など、影響が広がる前の確認点を決めます。最初は上司や経験者が確認し、安定したらサンプル確認へ変えるなど、本人の習熟に合わせて調整します。
対策の効果を見直す
次回の作業後に、対策を実行できたか、同じミスを防げたか、別の負担やミスが増えていないかを確認します。
再発防止策は一度決めて終わりではありません。厚生労働省の再発防止に関する案内でも、取組内容を定期的に検証し、見直すことが重視されています。
部下へ伝えるときの会話例
行動の改善を求めるときは、事実、影響、本人の認識、次の行動を分けます。
昨日の見積書で、顧客Aへ顧客Bの価格が入力されていました。送信前に発見できましたが、そのまま送ると顧客との信頼や契約条件へ影響します。作業を始めてから確認するまで、どの資料を見て、どの順番で進めたか教えてください。前回決めた確認方法で実行しにくかった点も確認し、次回の対策を一緒に決めたいです。
叱責を避けるために曖昧に伝えるのではありません。影響と改善の必要性は明確にしつつ、人格や意欲を決めつけないことが重要です。詳しい伝え方は部下へのフィードバックの伝え方で解説しています。
再発防止になりにくい5つの対応
「次から気をつけて」で終える
注意力が下がったときに同じミスが起きます。次回の具体的な行動と確認方法を決めてください。
すべてを二重確認にする
確認作業が増えすぎると、形だけのチェックになります。影響が大きい工程、自動化できない工程、間違いが起きやすい工程へ絞ります。
ミスのたびに手順を追加する
手順が複雑になるほど、新しいやり忘れが生まれます。追加する前に、不要な工程や重複した資料を減らします。
人前で強く叱る
早期報告や周囲からの指摘が減り、問題の発見が遅れる可能性があります。緊急対応と個別のフィードバックを分けます。
仕事をすべて取り上げる
高いリスクを一時的に止めることは必要ですが、恒久的に取り上げるだけでは本人が学ぶ機会を失います。範囲を小さくし、確認点を増やして再挑戦できる条件を決めます。
上司だけで対応しない方がよい場合
次の場合は、人事、情報セキュリティ、法務、品質管理、産業保健スタッフなど、社内の専門担当へ相談します。
- 顧客、金銭、法令、個人情報、安全へ重大な影響がある
- 意図的な隠蔽や改ざんの可能性がある
- 業務量や長時間労働が継続している
- 本人の通常の状態から大きな変化がある
- 体調への配慮や就業上の判断が必要である
- 複数の人が同じミスを起こしている
複数の人が同じミスをする場合は、個人より仕事の仕組みに原因がある可能性が高くなります。
再発防止チェックリスト
- 事実と評価を分けて整理したか
- 本人の作業を時系列で確認したか
- 前回と今回の原因を分けたか
- 人、仕事、情報、環境、管理を確認したか
- 「気をつける」以外の対策があるか
- ミスを早く発見できる確認点があるか
- 本人と上司の担当、期限を決めたか
- 対策後の確認日を決めたか
- 対策によって別の負担やミスが増えていないか
まとめ
部下が同じミスを繰り返すときは、本人の注意力だけを原因にせず、どの工程で、なぜ防げなかったかを確認します。期待する結果、手順、情報、業務量、経験、確認方法、相談しやすさを分けてください。
本人には事実と影響を明確に伝え、作業の流れを説明してもらいます。その上で、次回に実行する行動、間違えにくい仕組み、早く発見する確認点を決めます。
再発防止は、注意や手順を一度追加して終わりではありません。次の作業で実行できたか、ミスを防げたか、新しい負担が生じていないかを確認し、対策を更新してください。



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