部下には残業を減らしてほしい。けれど、残った仕事は自分が引き受けるしかない。増員を頼んでも「今は難しい」と言われ、採用されるまでの穴埋めがいつ終わるのかも分からない。そんな状態では、管理職を辞めたいと感じるのも無理はありません。
人手不足で辞めたいと感じたときは、「採用する予定があるか」だけでなく、「採用まで誰がどの仕事を担い、何を減らすか」が決まっているかを確認してください。自分の頑張りで埋め続ける前提を変えられるのかが、今の職場で続けるかを考える材料になります。
この記事は、増員や業務調整を相談しても状況が変わらず、役割調整・異動・転職を考え始めた管理職向けです。増員要請の数字の作り方は、人手不足を上司に説明する人員計画で詳しく扱っています。
人手不足を、管理職一人の能力の問題にしない
自分が現場に入れば、その日の仕事は終わるかもしれません。一方で、採用、育成、優先順位の判断に使う時間がなくなると、翌日以降も同じ穴埋めが必要になります。「管理職なのだから何とかする」だけでは、止める仕事や必要な支援は決まりません。
パーソル総合研究所の2019年調査では、従業員50人以上の企業の第1階層の管理職2,000人のうち、57.5%が人手不足を業務上の課題として挙げています。これは当時の対象者への調査で、現在の全管理職の割合ではありませんが、人手不足を個人の工夫だけで片づけないための参考になります。出典:中間管理職の就業負担に関する定量調査
部下を守りたい気持ちと、自分の働き方を守ることは両立させて考えてよいことです。まずは欠員を埋めている事実と、そのために実施できていない仕事を分けて記録します。
一時的な欠員か、穴埋めが前提の運用かを確認する
欠員の人数だけでは、改善の見通しは分かりません。採用が進んでいても、入社後すぐに一人分の仕事を任せられるとは限らず、引き継ぎや育成の時間が必要です。
| 確認する点 | 具体的に聞くこと |
|---|---|
| 採用の進み具合 | 採用枠は承認済みか。募集・選考のどの段階か。 |
| 入社までの体制 | どの仕事を延期・縮小し、誰がその判断をするか。 |
| 入社後の立ち上がり | 誰が育成し、その人の既存業務をどう調整するか。 |
| 予定が遅れた場合 | 応援・外注・業務削減をいつ、誰が再検討するか。 |
| 管理職本人の仕事 | 現場対応を引き受ける代わりに、何を担当から外すか。 |
「募集はしている」ことと、「負担が減る体制が決まっている」ことは違います。ただし、採用が難航しているだけで会社に改善意思がないと決めつける必要もありません。採用以外の対策を含め、実際に何を変えているかを見ます。
相談の目的を「増員してください」から「今の仕事の範囲を決めてください」へ広げる
人数を増やせないという回答でも、すべての仕事を同じ期限・品質で続けることまで合意したわけではありません。増員の判断と、その間の仕事量の判断を分けて依頼します。
「欠員業務の対応で、育成と案件確認の時間を確保できていません。採用までの間、定例資料を簡略化するか、別部署の応援を受けるか、対応案件を絞るかを決めたいです。どれも難しい場合は、期限と担当範囲を見直す必要があります。」
これは架空の相談例です。単に「忙しい」と伝えるより、止まっている仕事と選んでほしい対応を示します。工数を正確に測れていなければ、概算であることと、その根拠を添えましょう。
人を移せば解決するとも限りません。応援を出す部署や、仕事を引き受ける部下の負荷も確認します。自分の残業を別の人に移すのではなく、組織として仕事を減らす・遅らせる・支援する選択を求めます。整理の方法は管理職の残業を減らす業務棚卸しが参考になります。
話し合った後は、決定と実行を分けて残す
「大変なのは分かる」「もう少し頑張ってほしい」で終わると、現場の条件は変わりません。相談後は次の四つをメモします。
- 決まった変更:延期する仕事、外す担当、応援の範囲など。
- 決定者と担当者:誰が承認し、誰が実行するのか。
- 実行状況:合意だけか、実際に仕事量や担当が変わったか。
- 次の確認:未決事項を誰がいつ確認するか。
確認日は、そこまで我慢し続ける期限ではありません。状況が悪化したり、安全に業務を続けられなくなったりした場合は、予定日を待たずに相談してください。
改善が進まないときに比較する三つの選択肢
相談回数が多いから辞めるべき、数週間待てば十分、という一律の答えはありません。実際に変わった条件と、これから必要な支援を見て選びます。
| 選択肢 | 検討しやすい場面 | 先に確認する条件 |
|---|---|---|
| 現職で役割を調整する | 業務削減や代理者の配置が具体的に進んでいる | 自分に残る仕事と責任、実施時期 |
| 社内異動・職種転換を調べる | 会社には残りたいが、今の役割を続けにくい | 制度、受入先の体制、等級・給与への影響 |
| 別の会社も比較する | 負担の調整が進まず、希望する働き方との隔たりが大きい | 生活費、活動時間、次の役割と勤務条件 |
「部下を置いていくようで申し訳ない」という気持ちがあっても、チームの体制を一人だけで背負い続ける必要はありません。引き継ぐ内容と、会社が決める人員配置・採用の問題を分けましょう。役割を降りるか会社を変えるか迷う場合は、管理職を辞めたいときの役割調整・異動・転職の比較も使えます。
眠れない、強い不安が続く、日常生活に支障がある場合は、転職の結論や引き継ぎ計画を先に完成させようとせず、産業保健スタッフや医療機関などに相談してください。厚生労働省「こころの耳」の相談窓口案内からも相談先を探せます。
次の会社で、また欠員の穴埋めを背負わないために
転職先で同じ問題を繰り返さないためには、会社全体の人数や平均残業時間だけでなく、配属先の体制を確かめることが大切です。「管理職だから現場も当然担当する」という前提が、求人側と自分で食い違っていないかを見ます。
- 今回の募集は増員ですか、欠員補充ですか。
- 入社時点でのチーム構成と、採用予定を教えてください。
- 管理職本人が持つ実務と、管理業務の分担はどうなっていますか。
- 欠員や繁忙期が発生したとき、仕事量や期限は誰が調整しますか。
- 休暇中の判断・緊急対応は、誰が代行しますか。
- 入社後に改善を任せたい課題と、使える権限・支援を教えてください。
「今後増やす予定」という回答なら、決定済みの計画と検討中の案を分けて聞きます。入社条件に関わる重要事項は、口頭の期待だけで判断せず、書面や追加面談で確認します。
気になる会社があるなら、口コミを確認する質問に変える
企業口コミに、人員体制、残業、退職理由などの記述があれば、質問を考える手がかりになります。ただし、以前の部署の投稿から現在の配属先を断定することはできません。
例えば「辞めた人の補充がなかった」という投稿を見たら、今回の採用背景と、欠員時の業務調整を確認します。転職会議などを利用する前に、企業口コミの見方と、悪い口コミを応募判断に使う方法を確認しておくと、一つの評判だけで判断しにくくなります。
候補企業がまだないなら、先に希望条件を整理する
辞めたい気持ちはあっても、行きたい会社が決まっていなくても構いません。「現場対応を減らしたい」「代理者のいる体制がよい」「採用や優先順位を決める権限がほしい」など、変えたい条件を具体化します。
社外で経験を生かせる仕事があるか相談したい方は、転職するか決めていない段階での相談準備を参考にしてください。相談先は職種・経験と支援対象を照合し、応募を急がず情報を集めたい希望も伝えましょう。
まず確かめたいのは、「あと何日頑張れるか」より「この仕事を続けるために、誰が何を変える必要があるか」です。その答えを会社と確認しながら、社内外の選択肢を並べて考えてみてください。
