部下同士が衝突すると、上司は早く仲直りさせたくなります。しかし、急いで「二人で話して解決して」と任せると、声の大きい人の主張だけが通ったり、仕事の決め方が曖昧なまま再燃したりします。上司の役割は、どちらが好ましい人かを裁くことではありません。起きた事実と業務への影響を分けて確かめ、チームとして必要な役割・判断のルール・確認日を決めることです。
本稿は、同じチーム内で担当、優先順位、進め方を巡って対立している場面を扱います。他部署との依頼・優先順位の交渉は、指揮命令権や決定者が異なるため別の論点です。相手の言動に威圧、侮辱、差別、性的な言動、報復のおそれがある場合は、相性や通常の対立として仲裁せず、会社の相談窓口や人事・コンプライアンスの定めた経路につなげてください。
まず止めるのは「人」の評価ではなく、業務への支障
対立が見えたら、会議でその場の勝ち負けを決めないでください。納期遅延、顧客への誤案内、レビューの未実施、チャットでの応酬など、今週の仕事を止めている事象を一つずつ確認します。たとえば「Aさんは協調性がない」は評価であり、対処の材料にはなりません。「9月18日の仕様確認で、承認者が決まらず、提出予定の資料が翌日にずれた」は確認できる事実です。
先に安全と期限を守る暫定策を置きます。顧客への回答が迫るなら、上司が一時的な決定者になる、レビューを別の担当者に依頼する、担当の境目を一日単位で明文化する、といった方法です。これは罰ではなく、調査中に仕事と当事者を守るための措置です。「今週の提出物は私が最終確認する。二人には事実の記録と自分の担当だけを進めてほしい」と短く伝えます。
個別面談では、結論を急がず同じ項目を聞く
原則として、最初は一人ずつ話を聞きます。上司が先に「Aさんにも問題があると思う」と伝えたり、二人の発言をそのまま相手に渡したりすると、事実確認ではなく防御の場になりがちです。面談の目的は、同意を強制することではなく、次に確認する事実と必要な業務調整を見つけることです。話す内容の共有範囲も最初に説明し、健康情報や私的な事情を必要以上に集めないようにします。
| 聞く項目 | 質問例 | 記録する形 |
|---|---|---|
| 出来事 | 「いつ、どの案件で、何が起きましたか」 | 日時・場・発言や行動・関係資料 |
| 業務への影響 | 「期限、品質、顧客、他メンバーに何が起きましたか」 | 遅れた作業・未決定事項・影響範囲 |
| 本人の解釈 | 「何が問題だと受け取りましたか」 | 事実と分けて、本人の見方として記す |
| 必要な条件 | 「次の案件で、何が決まれば進められますか」 | 役割・決定者・相談条件・期限 |
| 安全上の懸念 | 「言いにくいこと、怖さ、報復への心配はありますか」 | 必要な共有先と保護措置を確認する |
例えばBさんが「Cさんが毎回、私の案を潰す」と話したら、「潰す」という評価をそのまま結論にしません。「9月18日の会議で、どの案が、誰の判断で、どう扱われたのか」「その結果、何が止まったのか」を尋ねます。Cさんにも同じ出来事を聞き、会議メモ、チケット、仕様書などで照合します。記憶が食い違うことはあります。だからこそ、片方の説明をもう一方へ伝言しないで、確認済みの事実、未確認の点、判断が必要な業務を分けます。
「事実・影響・解釈」を混ぜずに整理する
面談後は、対立の原因を性格に還元せず、次の三列で一枚にします。上司が見るべきなのは、誰が正しいと言い切れるかだけではなく、仕事が止まる原因を残していないかです。
| 区分 | 例 | 上司が次にすること |
|---|---|---|
| 事実 | 仕様変更の承認者が記載されず、二つの資料が別内容で提出された | 資料、変更履歴、関係者への確認で照合する |
| 業務への影響 | 顧客説明が半日遅れ、営業が古い資料を使った | 暫定の承認者と修正版の期限を決める |
| 解釈・感情 | 「自分だけ軽く扱われた」「相手は責任を取りたくない」 | 否定せず受け止めつつ、相手の意図と断定せずに扱う |
この分け方は、感情を無視するためではありません。影響を受けた人が安心して話せるようにしながら、再発しにくい仕事の条件を決めるためです。日常の一対一の注意が必要な行動があるときは、部下への注意の仕方のように、人格ではなく行動と期待する基準を扱います。一方で、今回のように二人の分担や判断経路が原因なら、どちらか一人への注意だけで終えてはいけません。
役割と決定ルールを、次の案件で使える言葉にする
「仲良く進めてください」では分担は決まりません。衝突した案件を題材に、作業者、レビュー担当、最終決定者、相談する条件を決めます。二人に同じ責任を置く必要はありません。決定が割れたときの出口を上司に戻すことで、相手を説得し続ける負担を減らせます。
例:次回の仕様変更では、Bさんが顧客要望をチケットに記載し、Cさんが技術上の影響を翌営業日までに追記する。採否は水曜15時までに上司が決定する。期限内に判断材料がそろわない場合、二人は結論を出さず、同日正午までに上司へ共有する。決定後の変更は、チケットに理由・決定者・反映先を残す。
この合意は、面談で聞いた私的な事情や評価を含めず、仕事の運用だけを関係者に共有します。全員が同じ会議に集まるのは、論点が整理され、互いに安全に話せる見込みがあり、役割やルールを合意する必要がある場合です。上司が「関係を修復して」と共同面談を強いるものではありません。威圧やハラスメントが疑われるとき、当事者を向き合わせることは適切な確認や保護を妨げるおそれがあるため、通常の共同面談に進めず所定の相談経路を使ってください。
反対意見や懸念を早く出せるチームの土台は、心理的安全性を高める管理職の実践例で補えます。ただし、心理的安全性は、ルール違反や相手を傷つける言動を見過ごすことではありません。意見を出せることと、決めた役割・期限・行動基準を守ることを両立させます。
再確認日を先に決め、実施結果で直す
対立が落ち着いたように見えても、運用が変わらなければ同じ場面で戻ります。合意した日から一〜二週間後、または次の同種案件の完了後に15分の確認時間を置きます。見るのは「二人の仲が良くなったか」ではなく、①決定者が迷わなかったか、②相談は期限内に来たか、③資料や顧客説明に食い違いが残ったか、④負担や不安が一方に偏っていないか、です。
たとえば「10月8日15時に、次の仕様変更でチケット、決定、反映先がそろったかを確認する」と日付・対象・確認者を残します。うまくいかなければ、誰かの姿勢を抽象的に責める前に、決定期限が短すぎたのか、レビュー範囲が広すぎたのか、上司の判断基準が不足していたのかを見直します。
ハラスメントが疑われるときは、仲裁の手順から外す
職場におけるハラスメントは、個人間の相性の問題として処理してよいものではありません。厚生労働省は、事業主に相談体制の整備、相談があった場合の迅速かつ正確な事実確認、被害者への配慮や行為者への適正な対処、再発防止、プライバシー保護、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止を求めています。厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
上司自身が事実認定や処分を担う権限を持たない場合もあります。暴言や脅し、差別的・性的な言動、継続的な孤立化、相談したことで不利益を受けるおそれなどがあれば、記録を保全し、本人の安全とプライバシーに配慮して、社内の相談窓口・人事・コンプライアンスへ速やかに引き継ぎます。厚生労働省のパワーハラスメント防止措置の資料も、相談・事実確認への協力を理由に不利益な取扱いをしてはならないと示しています。
チーム内の対立では、相手を変えようとするほど仕事が止まりがちです。まず個別に同じ項目を確認し、事実と影響を分け、次の案件の役割・決定ルール・再確認日を合意する。その枠では扱えない安全上の問題は、仲裁せず組織の正式な対応へつなぐ。この二つを分けることが、上司が当事者にもチームにもできる実務的な介入です。
対話やチーム運営をさらに学びたい方には、管理職の悩み別に選ぶ本も参考になります。
