『失敗の本質』レビュー|優秀な人がいても失敗する組織を、仕事から考える

計画の分岐図とコンパス、木製の人形で組織の意思決定を表したイメージ 書籍

真面目に働いている。担当者も優秀で、手を抜いているわけでもない。それなのに、同じ失敗が繰り返される。そんな職場で考えたいのは、個人の努力と、組織が成果を出す仕組みの違いです。

『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』は、日本軍の6つの失敗事例を、戦略と組織の両面から分析した本です。軍事史を扱いますが、目的の共有、現場の情報、補給、意思決定、学習、人事評価という論点は、仕事の進め方を考える材料にもなります。

読むうえで特に考えさせられたのは、過去に成功したやり方を磨くほど、新しい環境で必要な転換が難しくなるという問題でした。

『失敗の本質』はどんな本か

本書はノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄を取り上げ、事例研究から共通する問題を探り、最後に組織の環境適応と自己革新を論じます。

開戦理由や敗戦原因のすべてを説明する本ではありません。作戦の遂行において、どのような組織の特徴が判断と行動を方向づけたのかが研究の中心です。

努力不足だけでは説明できない失敗

本書では、目的の曖昧さ、短期決戦への偏重、狭い選択肢、情報や補給を含む技術体系の不均衡、人間関係に依存する調整、経験の共有不足、動機を重視する評価などが分析されます。

大切なのは、これらを独立した欠点の一覧として読まないことです。目的が曖昧なら、何を優先し、どの時点で計画を変えるかも決めにくい。反対意見を聞けなければ、実行条件の不足に気付きにくい。結果を検証して共有しなければ、次の作戦でも同じ前提が残ります。複数の問題が互いを強めるところに、組織としての失敗があります。

勇気や能力のある人がいても、それだけで全体が機能するとは限りません。個人を励ます前に、その人がどんな目的、情報、権限、制約のもとで働いているかを見る必要があると感じました。

3つの事例から考える、仕事の進め方

インパール:希望と実行条件を分ける

インパールの事例では、短期での成功を前提に、輸送、食料、雨季、敵の航空輸送などへの見積もりが不十分なまま計画が進みます。反対意見が弱気と扱われ、停止判断も遅れていきました。

強い信念があることと、その計画が実行できることは別です。仕事でも、期限を決めるだけでは、必要な人員や予算、関係部署の協力は生まれません。意欲を確かめるだけでなく、成立に必要な条件を確かめることが先にあります。

応用するなら、着手前に「この計画は希望を除いても成立するか」と問い、必要な条件と、続行を見直す条件を書いておく。これは本書の事例から考えた業務への応用です。

ミッドウェー:検証を計画の正当化にしない

ミッドウェーでは、作戦目的の共有不足、情報と連絡の制約、攻撃を優先する思想などが重なります。後半の組織学習の分析には、図上演習で不都合な結果が修正された例も登場します。

検証の場が、承認済みの計画を成功させる説明を作る場になってしまう。その危険は、仕事の会議でも考えたい問題です。賛成材料だけを集めていると、実行前に見直せたはずの前提が残ってしまいます。

会議で事実、解釈、希望を分け、自分の考えに反する情報を先に聞く。計画への熱意を、検証の丁寧さで支える姿勢が必要だと思いました。

沖縄:部門ごとの努力を全体の目的につなぐ

沖縄の分析では、中央が重視した航空戦と飛行場確保、現地が重視した地上持久戦という目的のずれが、兵力配置や攻撃要求の矛盾につながります。中央と現地が、それぞれの考えに沿って行動しても、全体が調整されるとは限りません。

仕事でも、営業、開発、運用などの部署が異なる成果基準で動くことがあります。その違い自体をなくすより、衝突したときに全体の優先順位を決める責任者と、共有する最終目的が必要です。

「各部署は頑張っているのに、全体ではうまくいかない」という状態を、個人の姿勢だけで説明しないために役立つ事例でした。

成功体験が、変化を難しくする

第3章で特に印象に残ったのは、過去の環境に適合した戦略が、装備や訓練、昇進、日常の行動まで方向づけていく分析です。陸軍の白兵銃剣主義、海軍の艦隊決戦主義は、単なる作戦の選択肢を超えて、組織が何を優れた能力と考えるかにも影響していました。

学習していなかったというだけではありません。同じ前提のもとで、より上手にできるよう学習していた。しかし環境が変わると、目的や前提そのものを見直す必要があります。手段の改善だけでは、その転換に届きません。

今の成功パターンが通用する条件を確かめること。成果が出ないときに、努力の量を増やすだけでなく、目的、前提、評価基準を見直すこと。本書を仕事に持ち帰るなら、この区別を覚えておきたいと思います。

この本の良さと、読む際の限界

本書の良さは、組織論を具体的な判断と行動の連なりに結び付けていることです。結果が出てから個人の判断を批判するだけでなく、なぜその判断が選ばれ、反対意見や情報が届かず、修正が遅れたのかを考えられます。

管理職だけでなく、複数部署の仕事を調整する人、企画や業務改善を担う人、振り返りを次の仕事に生かしたい人にも、考える材料があります。一方で、軍事用語や戦況の説明が多いため、短時間で実用手順だけを得たい人には読みやすい本とはいえません。

失敗の6事例から抽出した特徴を、すべての組織に当てはまる普遍的な因果と断定しないことも大切です。米軍との比較では、国力や物資量の違いと、制度や判断の違いを分けて読む必要があります。個々の判断を結果だけで裁くことにも注意したいところです。

企業、政治、行政への議論には、1984年当時の問題意識が含まれています。現在の職場への応用は、自分の仕事の条件で確かめる必要があります。また、戦争における人命の損失と、通常業務の失敗を同一視することはできません。

日本的な組織の現場学習、情報共有、柔軟な微調整の長所も認めたうえで、部門統合の負荷、意思決定の遅さ、異論の排除を問う点も印象的でした。単なる精神論批判として読むと、本書の議論を狭めてしまいます。

仕事で試すなら、次の案件の前提を1枚に書く

ここからは、本書を踏まえた業務への応用案です。次の案件や会議で、最終目的、成果基準、必要な条件、続行を見直す条件を1枚にまとめてみると、認識の違いを話し合いやすくなります。

  • 最終目的を一文で言えるか。
  • 相手や環境の変化を示す事実を確認したか。
  • 必要な人員、時間、予算、関係者の協力はそろっているか。
  • 自分の考えに反する情報を聞いたか。
  • 続行を見直す条件と、調整する責任者を決めたか。
  • 結果を次の案件や別の担当者に伝える場を決めたか。

振り返るのは失敗だけではありません。成功した案件も、再現できる条件と、偶然や相手の事情に助けられた部分を分けて考える。そこまで行うことで、経験が次の判断を支える知識になります。

頑張り方と、前提の見直し方を考える一冊

『失敗の本質』は、努力や熱意を否定する本ではありません。努力が成果につながる条件を、戦略と組織から問い直す本です。

自分の仕事で同じ問題が繰り返されるとき、誰がもっと頑張るべきかを考える前に、目的は共有されているか、情報は届いているか、実行条件は成立しているか、経験は次に生かされているかを確かめる。その視点を持ち帰れるところに、読む価値があります。

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  • 書名:失敗の本質 日本軍の組織論的研究
  • 著者:戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 初版:1984年5月31日
  • 今回読んだ電子版:2013年4月29日発行、ASIN B00BN16XX8

電子版の巻末には、2012年7月4日刊行の第69刷を一部加筆修正して電子化したものと記されています。

書誌情報の参照:ダイヤモンド社『失敗の本質』

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