複数の部下を持つ管理職は、全員へ同じ時間をかけることが難しく、「誰から育成すべきか」と悩むことがあります。
育成に優先順位をつけること自体は必要です。ただし、部下を「優秀な人」「育たない人」と固定的に分類し、一部の人だけを支援する方法はおすすめできません。人ではなく、現在の役割、必要な能力、本人の希望、実践できる機会を基準に、育成テーマと支援の強さを決めます。
この記事では、限られた時間の中でも全員を放置せず、育成の優先順位を決めて実行する手順を解説します。
部下育成に優先順位は必要。ただし人に序列をつけない
全員へ同じ研修、同じ面談時間、同じ仕事を割り当てても、必要な支援は一致しません。
たとえば、来月から新しい業務を担当する人には、すぐに必要となる知識や手順の習得が優先されます。半年後のリーダー候補には、意思決定や仕事の委任を経験する機会が必要です。一方、すでに一人で業務を進められる人には、細かな指導よりも挑戦的な課題と振り返りの方が役立つ場合があります。
この違いは、人としての優劣ではありません。その時点の役割と課題に応じた支援の違いです。
優先順位を決めるときは、次の二つを分けて考えます。
- 全員へ継続して行う支援
- 一定期間、重点的に行う支援
重点対象は固定せず、業務や成長の状況に合わせて見直します。
最初に全員へ確保する最低限の育成支援
重点対象を決める前に、全員へ提供する最低限の支援を決めます。一部の部下だけが上司と話せる状態では、課題や希望を把握できず、優先順位そのものが不正確になるためです。
最低限、次の機会を確保します。
- 期待する役割と成果を伝える
- 定期的に仕事の進捗と困りごとを確認する
- 本人の希望や今後身につけたい能力を聞く
- 必要な情報、手順、相談先を提供する
- 行動と成果について具体的にフィードバックする
- 心身の安全や法令に関わる教育は優先順位にかかわらず実施する
個別の課題や希望を確認する方法は、1on1ミーティングの進め方も参考にしてください。
育成の優先順位を決める4つの基準

役割上の緊急度
最初に、その能力が必要になる時期を確認します。
- 新しい担当業務が始まる
- 顧客対応や管理業務を引き継ぐ
- チーム内に代替できる人がいない
- 品質、安全、法令順守に影響する
- 事業計画の実行に必要な役割を担う
期限が近く、習得しなければ業務へ大きな影響が出るテーマは優先度が高くなります。ただし、緊急対応だけを続けると中長期の成長が後回しになるため、期限のないテーマも別に管理します。
現状と必要能力の差
次に、期待する役割に必要な状態と現在地の差を確認します。
「コミュニケーション力が足りない」のような広い言葉では、育成方法を決められません。実際の行動へ分解します。
たとえば、次のように整理します。
- 会議で結論と根拠を分けて説明できる
- 顧客の要望を確認し、対応範囲を合意できる
- 問題を事実と仮説に分けて報告できる
- 部下へ目的、期限、判断基準を伝えて仕事を任せられる
能力差が大きい場合、いきなり難しい仕事を任せず、観察、練習、小さな実践、振り返りの順で支援します。
本人の希望と準備状況
上司が必要だと考える能力と、本人が伸ばしたい能力は一致しないことがあります。
本人の希望だけで育成テーマを決める必要はありませんが、理由を説明せず一方的に決めると、学びを実務へ生かしにくくなります。
次の点を話し合います。
- 本人が今後担いたい役割
- 現在困っていること
- 得意なことと伸ばしたいこと
- 学ぶために確保できる時間
- 上司や周囲に求める支援
- 今回の育成が本人とチームに必要な理由
厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」でも、職務に必要な能力・スキルを明確にし、本人と学びの目標を擦り合わせることが重視されています。
学びを実務で試せる機会
研修を受けるだけでは、仕事で使える状態になったか判断できません。学んだ内容を試し、結果を振り返れる業務があるかを確認します。
たとえば、次のような機会です。
- 小規模な案件の主担当を任せる
- 会議の進行を任せる
- 業務改善案を作り、関係者へ説明してもらう
- 後輩への説明や手順書作成を任せる
- 上司が担当している仕事の一部を委任する
任せる仕事の目的、権限、判断基準、相談のタイミングを明確にします。詳しくは、部下へ仕事を任せるときの考え方で解説しています。
育成対象とテーマを決める5つの手順
3〜6か月後に必要な役割を整理する
組織目標、予定している案件、異動や引き継ぎを確認し、チームで必要になる役割を一覧にします。
各メンバーの現在地を事実で整理する
印象ではなく、担当した仕事、観察した行動、成果、本人との対話を基に整理します。過去の一度の失敗を固定的な評価にしないことが重要です。
本人と育成目標を擦り合わせる
上司の期待を説明したうえで、本人の希望と不安を確認します。目標は「成長する」ではなく、期限と行動が分かる表現にします。
重点対象と支援内容を決める
一度に多くのテーマを設定せず、本人ごとに1〜2テーマへ絞ります。重点対象以外にも、全員への最低限の面談とフィードバックは継続します。
1か月ごとに見直す
進捗、業務の変化、本人の負荷を確認し、支援方法と優先順位を見直します。予定より早く自立した場合は、上司の関与を減らし、別のメンバーへ時間を移します。
後継者候補を育てる場合の注意点
管理職が自分の仕事を委任し、次のリーダーを育てることは重要です。後継者が育てば、管理職はチーム全体の課題や中長期の改善に時間を使いやすくなります。
中長期の課題へ時間を振り向けるには、マネージャーに必要な3つのスキルと役割の切り替え方も確認し、プレイヤー業務と管理業務の配分を見直してください。
ただし、後継者候補を一人だけに決めつけると、次の問題が起こります。
- 本人がその役割を希望していない
- 一人へ経験や情報が集中する
- 他のメンバーに成長機会がなくなる
- 候補者の異動や退職で計画が止まる
- 上司と似たタイプだけが評価される
候補者本人の意思を確認し、可能であれば複数人へ異なるリーダー経験を提供します。「自分の分身」をつくるのではなく、自分とは違う強みを持つ人も成果を出せるよう、役割と判断基準を共有します。
育成が進まないときに確認すること

成果が出ない理由を、本人の意欲だけで判断しないようにします。
- 期待する役割が伝わっているか
- 必要な知識や手順を学ぶ機会があるか
- 実践する仕事と権限が与えられているか
- 相談しても不利益を受けない環境か
- 業務量が多すぎないか
- 上司のフィードバックが抽象的ではないか
- 本人の希望と役割に大きなずれがないか
部下が質問や失敗を共有しにくい場合は、心理的安全性を高めるために管理職ができることも確認してください。
私自身、管理職になりたての頃、成果が出ない部下に対して期待を下げ、十分に向き合わなかった経験があります。しかし、育成に使える時間が限られていても、本人を見捨てることと、支援の優先順位を調整することは別です。
全員の可能性を無条件に楽観するのではなく、必要な期待を伝え、支援し、事実を基に振り返ることが管理職の役割だと考えています。
月1回見直す育成計画テンプレート
メンバーごとに次の項目を1枚にまとめます。
- 現在の役割
- 3〜6か月後に期待する状態
- 優先する育成テーマ
- 本人の希望
- 実践する仕事
- 上司が行う支援
- 成果を確認する基準
- 次回の確認日
記録を人事評価のためだけに使わず、本人との対話と支援方法の改善に使います。
まとめ
部下育成では、全員へ同じ時間を配分する必要はありません。一方、一部の人だけを「育つ人」と決め、他の人を放置する方法も適切ではありません。
育成の優先順位は、次の4つで判断します。
- 役割上の緊急度
- 現状と必要能力の差
- 本人の希望と準備状況
- 学びを実務で試せる機会
全員への最低限の対話とフィードバックを確保したうえで、重点テーマを決め、1か月ごとに見直しましょう。
育成施策を実行へ移すときは、部下が力を発揮しやすい環境を整える方法もあわせて確認してください。
参考:



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