A部長から「顧客への提案を先に」、B部長から「社内の集計が最優先」。どちらも今日中と言われ、片方を進めると、もう片方から遅いと言われる。二人の上司の間に立つと、仕事そのものより、誰にどう説明するかで疲れてしまいます。
相反する指示は、担当者が黙ってどちらかを選ぶより、両立できない条件を並べ、その範囲を決められる人に調整してもらうことが先です。「偉い方に従う」「後から来た指示を優先する」だけでは、もう一方への影響が残ります。
この記事は、直属上司とプロジェクト責任者など、複数の人から同時に異なる指示を受けた場面を扱います。一人の上司が途中で方針を変える場合は、指示変更に合わせて範囲と締切を再合意する方法が役立ちます。
まず「意見の違い」と「両立できない指示」を分ける
二人の言葉が違っていても、対象や段階が違うだけの場合があります。「簡潔に」と「詳しく」なら、要約を本文に、詳細を別紙に分ければ両方を満たせるかもしれません。反対に、同じ資料について「数値を載せるな」と「必ず載せろ」なら、作業の工夫だけでは決まりません。
次の三つを書き出してみてください。
- 何についての指示か:成果物、作業順、期限、費用など
- それぞれの目的は何か:顧客との約束、社内会議、品質確認など
- どの条件が両立しないか:同じ時間を使う、内容が矛盾する、権限が異なるなど
ここで「Aさんは厳しい」「Bさんは話を聞かない」と性格を書いても、調整内容は明確になりません。まず仕事の条件に置き換えます。目的が不明なら推測で埋めず、「今回の締切を動かせない理由を確認してもよいですか」と聞きましょう。
英国の労働安全衛生当局HSEも、組織が従業員へ求めることの整合性や、役割の矛盾を相談できる仕組みを重視しています。日本の会社への法的な指示ではありませんが、矛盾の調整を担当者の我慢だけにしない考え方は参考になります。出典:HSE「Management Standards — Role」。
二人の指示を、同じ判断材料にまとめる
それぞれに別々の説明をすると、「そんな事情は聞いていない」という状態が残ります。最初に受けた指示と後から受けた指示を、同じ短いメモに並べてください。相手の言葉をそのまま転送するより、誰が見ても判断できる条件に整理します。
以下はすべて架空の例です。時間は説明用の見積もりで、一般的な所要時間を示すものではありません。
- 指示A
- 営業責任者から、顧客への提案資料を今日17時までに提出。残り作業は約3時間。
- 指示B
- 所属部門の責任者から、明日の会議用集計を今日16時までに提出。残り作業は約2時間。
- 両立できない点
- 会議などを除き、今日作業に使える時間は約3時間。両方を全文完成させると約2時間不足。
- 決めたいこと
- どちらを先に完成させるか。もう一方の範囲・期限・担当をどう変えるか。
大切なのは、「私は忙しい」で止めず、優先する仕事を決めると、もう一方に何が起きるかを示すことです。すでに顧客へ約束した日程など、変更に別の合意が必要な条件も添えます。残業で埋めることを自動的な前提にせず、勤務時間を含めて調整してください。
一方、まだ依頼を受けたばかりで見積もれないなら、「少なくとも同時着手はできない」「Aを先にするとBは何時から着手になる」という分かる範囲から共有して構いません。正確な見積もりが出るまで衝突を伏せる必要はありません。
誰に決めてもらうかは、役職の高さだけで判断しない
直属上司が人員の配分を決め、プロジェクト責任者が成果物の内容を決めるなど、権限が分かれている職場もあります。社内の決裁・指揮命令のルールを確認し、いま衝突している判断を確定できる人を探します。
- 同じ案件の作成方針が割れた:その成果物の承認者へ、意見の相違をまとめる。
- 別案件の優先順位が割れた:自分の稼働配分を調整する上司へ、両案件の責任者との調整を依頼する。
- 内容の承認と費用の承認が食い違う:片方の承認で代替せず、それぞれの未決条件を整理する。
- 誰に権限があるか分からない:直属上司などに、決定者と調整経路の指定を求める。
「A部長がこう言っています」とB部長に判断を丸投げするより、「AとBがこの条件で両立しないため、優先順位の調整をお願いしたいです」と伝えます。個人間の勝ち負けにせず、案件の判断として扱いやすくなります。
部署ごとの意見を聞くだけでは決まらないときは、関係者の短い打ち合わせをお願いしてもよいでしょう。機密情報や社内の連絡ルールに配慮し、関係のない上位者まで一斉に宛先へ追加して圧力をかける必要はありません。
「どちらも大事」と言われたときの返し方
どちらも大切なのは分かっていても、同時にできないから困っていますよね。重要かどうかの話から、実行条件の話へ戻します。次は架空の会話例です。
上司:「どちらも重要だから、うまくやって」
担当者:「両方必要な点は理解しています。今日の作業時間では、提案資料を完成させると集計は明日午前になります。集計を今日必須の数字だけに絞るか、別の担当に一部をお願いするか、調整できますか」
実行できる案があるなら、理由とともに一つ推奨します。「顧客の約束を守るためAを先にし、Bは会議で使う項目だけ先に出す案です」と言えば、上司は承認するか別案を選ぶかを判断できます。存在しない応援要員を前提にした案や、必要な確認を省く案は避けましょう。
二人が別々に「自分の仕事を先に」と返す場合は、その返答も含めて調整役へ戻します。担当者が片方にだけ了承し、もう一方には隠すと、調整済みと誤解されかねません。
決まるまで進める範囲と、止める範囲を共有する
判断待ちでも、共通して使うデータの整理や、後から変更しやすい下準備は進められる場合があります。ただし、不要になる可能性の高い作り込みまで進めると、待ち時間を使ったつもりが手戻りになります。
【架空の連絡例】本日14時までに優先順位の確認をお願いします。それまでは両資料に使う元データを整理します。提出順の確定と社外への送付は保留します。14時の時点で決まらない場合は、提出見込みを改めて共有します。
返答がないことを承認に置き換えたり、権限のない契約・費用・対外約束を進めたりしないでください。期限が迫ったら、「まだですか」だけでなく、いま決めない場合に変わる提出見込みを伝えます。
決定後は、後回しにした側へも同じ内容を返す
「A優先で決まりました」だけでは、Bがいつできるのか分かりません。決定者、先に行う仕事、後回しにする仕事の新しい範囲と日時、関係者への説明担当を記録します。
【架空の決定メモ】両責任者の確認により、今日は提案資料を優先します。集計は本日16時に主要項目、明日10時に残りを提出します。会議で扱う項目の変更はB部長から関係者へ共有いただきます。
同じ衝突が続くなら、その都度うまく断ることより、案件間の優先順位を誰が決めるかを整える方が大切です。管理職へ相談するときは、担当・決定者・相談先をそろえる役割分担を使い、「依頼を増やす際の確認先」「不在時の代理」「決定後の共有先」を具体化できます。
威圧や報復があって相談できない場合は、この例文だけで解決しようとせず、社内の人事・相談窓口など別の経路を使ってください。通常の業務調整では、まず二人の指示を一つのメモへ並べることから。両方の要求を一人で背負う前に、両立しない条件を見える形にしましょう。

